帰依する人々 −食品中の放射能について−


人は見たいと欲したものしか見えない』傾向があり、『見たくないものでも、きちんと見える』というフレキシビリティさを、年齢とともに失っていきます。人生を経て経験を糧としつつも、フレキシビリティを失わず、バランスの良い考えができる事が、最終的な人間の価値を決めるのではないでしょうか。

少しイタい大人たちについてでも書きましたが、一途に思い込んだ正義ほどやっかいなものはなく、イデオロギーに魅了され帰依した人間は、いくら明確な証拠があっても、どんなに説明を受けようと、その間違いを認めず、実際に弊害が起きていても『善意から出た行動が、悪い結果に結びつく筈がない』と考えます。そして、そのイデオロギーを標榜する組織が犯した悪や失敗を認めようとしないのです。

悪と知りつつ行う行為には歯止めがありますが、正義と信じて行う行為には歯止めが無いので、その被害は悪と知りつつやっている人よりも大きくなってしまいます。

その例を、『食品中の放射能』で見ていきたいと思います。『子供の命を守れ!』という真面目な奥さまたちが、反原発の放射脳にいかに洗脳され、いかに被害を与え続けているかという一例として。

まず、食品中の放射能濃度について、山本太郎氏が情報ライブミヤネ屋に出演した時の映像がYoutubeに載っていたのでご覧ください。(同様のムービーはあちこちにあります。山本太郎、食品中放射能で検索すればいくつも出てくると思います)

食品基準100Bq/Kgは原発 廃棄物と同等

ここで、山本太郎氏は『国が与えた安全基準、1kgあたり100ベクレルは、放射性廃棄物と同等だということはTVからは伝わってないですよね。』とし、『民放のTVがスポンサーの関係でモノが言えない』とTVを批判したのに対し、TV側が『そんな事はない』と反論し、最後にミヤネ屋が『国会での情報発信期待していますから頑張ってください』と締めています。

これだけでも、いくつも問題があります。

まず、科学的な事実から言うと、人体中には自然放射能として、いろいろな放射性核種があります(右図参照)、よく、イベントなどで『あなたの放射能を測ろう』と、ホールボディカウンター車を用意して、無料で測定しています。私も自分自身を測ったり、ゲストの方を測ると、ほぼ5千から1万ベクレルくらいです。

つまり、山本太郎氏を測ると、体重60kgくらいですから、7000ベクレルでしょうか。体重で割ると、1kgあたり117ベクレルです。つまり、彼の言葉によれば、彼自身が『放射性廃棄物と同様』ですから、放射性廃棄物マークを付けて外出してもらう必要があります。,


実は、冷戦時代に米国やソ連が大気圏核実験をやっていた頃は、世界中に『死の灰』が降り、核分裂反応由来の核種が人体に蓄積されました。右図はそのうちセシウムだけですが、1964年では体内量が500ベクレルを越えています。つまり、私も含め、今の団塊の世代は、今回、福島で被爆した人よりも遥かに多い放射能を体内に抱えて生きてきた訳です。

その団塊の世代の平均寿命は、女性では世界トップ、男性でも3位、4位といいところをいっています。『死の灰』を浴びても長生きしています。むしろ、『死の灰』を浴びなかった現代の世代は団塊の世代ほど長生きできるのでしょうか。


1kgあたり100ベクレルというのは、それほど低い値だということです。科学的には、1kgあたり100ベクレルでなく、1000ベクレルのレベルの食品を1年間摂取し続けたとしても、自然放射能の1mSv程度の被爆で済むということで、1000ベクレルが世界的な標準になっています。

世界標準の食品中の放射能基準については、山本太郎氏の国会質問に対して、田中俊一原子力規制委員会委員長が明確に答えています。そのYoutube映像がこちら。

山本太郎が国会質問、田中俊一委員長『逆です』

田中委員長は、『国際的な基準でいえば、コーデックス委員会という国際的な貿易をする時の食品基準が1kgあたり1200ベクレルです。EUも1000です。アメリカは1200です』と答え

『しかし、原発事故などでその達成が困難な時には一時的にもっと高くする』と説明しています。(事故後なのに、通常の世界標準1000ベクレルよりも低い100ベクレルにする日本は逆であって、『厳し過ぎる』と田中氏も感じている訳ですね。)

山本太郎氏はこの答えで、国際基準が分かった筈です。(ちょっとインターネットで調べればすぐに分かる事ですが)

それにもかかわらず、未だに『もっと低くしろ。その方が安全だ』と主張しています。

これも間違いです。安全性を語る時には『過剰な安全要求は、安全性に寄与しないばかりか、むしろ危険だ』ということを認識する必要があります。

具体的にいえば、1kgあたり100ベクレルという低い値を測定するためには正確な測定器が必要ですし、時間がかかります。そうすると、現実には全てを測定できず、試験をすり抜けてしまうものが出てきます。世界標準としての1000ベクレルだと簡単に測定できて全数をチェックできますが、100ベクレルとすると時間がかかって大変になり、10ベクレルなどとすると現実には全てを測定することは不可能となって、本当に過大な放射能を持っている食品を見逃すことになるでしょう。過剰な安全要求をしたために現実的には危険になる訳です。

そして、1000ベクレルを100ベクレルにした時の安全性のメリットについていえば、1000ベクレルで1年間1mSvの被爆ですから、100ベクレルにしても1mSvが0.1mSvになるだけです。私は今年、診断のために何度もX線CTを受けていますが、1回あたり7mSvを浴びています。また、4000mSvを浴びる その1に書いたように、0.9mSvは胃の集団検診1回分にしか過ぎません。その程度の量を減らしても、殆ど何のメリットもないのです。

逆に、国際標準の1000ベクレルではなく、何ら科学的な根拠のない100ベクレルとしたための弊害は大きいものがあります。大変な測定作業のために福島の復興を妨げているばかりか、本来なら大丈夫だった筈の(福島の放射能を浴びていない)青森産干し椎茸が出荷できなくなったり、たまに基準値を超えるものがあると大々的に報道されて風評被害を引き起こしているのです。

遂には、EUからは、『日本がそんなに基準を厳しくするなら、日本産のものには日本の厳しい基準を適用しちゃうよ』と言われ、静岡産のお茶など今まで輸出できていたものが輸出できなくなっています。韓国にしても、日本でダメなものを韓国の国民に食べさせる訳にはいかないと規制をかけています。

このように、帰依して見たいと欲するものしか見えなくなった人々の身勝手な正義感のために、福島の農業の復興に頑張っている人や、何の罪もない青森の干し椎茸業者、静岡の製茶工場の人々、韓国への水産物の輸出ができなくなった漁師が大迷惑を被っているのですが、正義感に燃えている本人たちは全く気付かないのです。『善意から出た行動が、悪い結果に結びつく筈がない』と信じているからです。


さて、先ほどのTVでの問題に戻りますが、

1kgあたり100ベクレルという値が科学的にどのような値かというのは、調べればすぐに分かります。本来は、山本太郎氏が『放射性廃棄物レベルだ』と言った時に、『それなら貴方も放射性廃棄物だ』とコメンテーターが反論しないといけないのです。それ位の科学的な知識もなく、放送をしてはいけないのです。

それを『スポンサーとの癒着などない』などと弁護してしまうと、それを観ていたお母さんは、放射性廃棄物レベルというのは本当で、ひょっとしたら、TV局とスポンサーが癒着しているのかも、と思ってしまう訳です。

そもそも、日本のマスコミの問題点で書いたように、

1.知識不足、調査不足
2.いたずらに恐怖を煽る

の問題があり、それを表面的、感情的に伝えるだけだから、世のためにならないのです。TV局としては、山本太郎氏を呼んで不安を煽って視聴率が上がればいいのでしょうが、本来は出演させてはいけないし、それを激励してもいけないし、出演させるにしろ、科学的な間違いを指摘するコメンテーターとか、きちんした権威ある人を一緒に呼ばないといけないのです。

さて、本当の問題はここからです。

そのTVを観ていたお母さんは、ひょっとしたら、厳しい安全基準と言っているけど嘘かも、と思ってインターネットで調べます。すると、権威ある機関が正しく作っているホームページもありますが、都市伝説まがいの怪しげなページもたくさんあります。しかも、怪しげなやつほど分かり易く書いていたりします。被災者などの弱者に寄り添うポーズをとり、国や地方自治体を非難しているのも特徴です。

権威ある機関のものは、科学的な正確さを追求するために、分かり易く書けない場合が多いのです。たとえば、直ちに健康に被害はでない・・・についてに書いたように、『リスクはゼロではないが、これこれのリスクで、他のリスクと比較して無視できる程度だ』と書かざるを得ないのです。

それでも、普通に『見たくないものでも、きちんと見える』人は、ちょっと調べれば、な〜んだと理解できます。

問題は、何かに帰依していて、バイアスがかかり、見たいと欲したものしか見えない人がいることです。

そういう人にとっては、インターネットは情報の宝庫です。どんな馬鹿げた議論であっても、それらしい権威を纏って載っているからです。注1)

そうすると、真面目な人ほど、『大変だ、子供を放射能から守るために、私も何か行動しなくちゃ』と思って、行動を始めるのです。ネット上にある馬鹿げた情報を集めてきて自分のホームページを作ったり、それを拡散してと友人に頼んだり、あげくの果てにはエセ科学者を呼んで勉強会を開いたりするのです。

さて、これら、山本太郎氏、TV局、コメンテーター、行動を始めた主婦のうち、誰が最も大きな被害を与えるかというと、見たいと欲するものしか見えなくなった真面目な主婦なのです。

TV局は、山本太郎氏を出演させて不安を煽って視聴率をとれたので、それで終わりです。コメンテーターも小金をためて満足。つまり、悪と知りつつ行う行為には歯止めがあります。

ところが、正義と信じて行う行為には歯止めが無いので、その被害は悪と知りつつやっている人よりも大きくなってしまいます。どういう弊害が起きていても『善意から出た行動が、悪い結果に結びつく筈がない』と考え、現実に出てくる弊害や失敗を認めようとせず、突っ走ってしまい、最後には、『食品中の放射能基準値を下げろ』という、世の中の『空気』を作ってしまったのです。

1kgあたり100ベクレルという、世界的にみて呆れるような基準値を定めた委員会の委員は、専門家であり、そこまで下げる必要が無いと分かっていた筈です。ところが、世の中に『食品中の放射能基準値を下げろ』という『空気』が蔓延し、下げれば下げるほど、誉められはすれ非難されることがない状態だった訳です。そういう委員会の先生は、通常、大学などで安穏に過ごし、非難を受けるという経験がないので打たれ弱く、自らの信念を貫くことができなかったのだと想像します。

これは、国際連盟を脱退すべきでないと考えていた外務省高官たちが、世の中の『空気』に抗えず、脱退してしまって太平洋戦争に突っ込んでいった時と全く同じ構図です。『見たいと欲するものしか見えない』という事が如何に危険かということです。その危険性や弊害を何度説明しても、一旦何かに帰依した人々は決して認めようとしないのです。


私のこの文章も、帰依した人たちにとっては、『原子力村(核融合や加速器専門なので本当は違いますが)の科学者の戯言』と見なされてしまうのだろうなあと、無力感を覚えます。その場合でも、現実に、少なくとも『食品中の放射能で大量の人が死ぬ』とか、『2年以内に日本壊滅する』とかの状況になっていないなあという事実は認識して欲しい。そして『私って、何か間違っているかも』と気付くきっかけにして欲しいと思うのです。


注1:代表的なのは、欧州放射線リスク委員会(ECRR:European Committee on Radiation Risk)。ベルギーに本部を置く市民団体ですが、広瀬隆氏など日本の反原発の人たちは、『欧州議会の中に設立された非常に信頼性の高い機関であり、欧州評議会や各種の国際機関と密接な関係を持つ』と、調べればすぐに分かる明らかな嘘をついています。

単なる市民団体というよりも、『カルト集団』と呼ぶべき団体であって、エセ科学者やエセ専門家の集まりです。この団体が、権威ある国際放射線防護委員会(ICRP: International Comission on Radiological Protection)の勧告(ICRP勧告)を真似て、ECRR勧告を出しています。ICRP勧告は、世界の放射線防護に関する多くの専門家を集め、その時点の研究成果を元に各国の放射線防護に役立つ勧告を出すために、多くの論文を引用しています。ECCR勧告も同様に引用文献を付けていますが、その殆どは私的な出版社から出されたものです。通常、論文は科学雑誌に載せる前に複数のレフェリーと呼ばれる第三者の科学者がチェックしますが、そのチェックに耐えられない内容だからです。でも、一見するとICRP勧告とECRR勧告が同等の権威をもっているように見えます。

ECRRの主な主張に、『100mSv以下の体内被爆に関して、統計的にまだ分かっていないことがある。ICRP勧告の直線仮説より、はるかに被害は大きい』があります。

確かに、100mSv以下の被爆に関しては影響が少なく統計的に結論を出すのが難しい事は本当です。しかし、少なくとも、直線仮説よりは小さいということは分かっています。もし、大きければ、統計的に分かる筈だからです。そもそも、子供の頃に『死の灰』を浴びて、セシウムやストロンチウムなどの核分裂核種の体内被曝もたっぷりとした団塊の世代が実際に長生きしているという事実だけからでも、ECRRの主張が間違っていることは分かります。

100mSv以下の被爆に関しては、以下の3つのケースが有り得ます。

1.直線的
2.影響なし。ゼロ
3.むしろ良い効果がある(放射線ホルムシス効果と呼びます)

世界には高放射能地帯があり、年間10mSvから70mSvの放射線を浴びている人々がいます。何世代にもわたって、その影響を疫学的に調べた研究結果がたくさんありますが、その結論は『2.影響なし。ゼロ』です。

また、日常的に高線量を浴びる集団として、航空機のパイロットがあります。多くのパイロットについてその影響を調べたところ、通常の人よりも長生きしているという調査結果があります。『3.むしろ良い効果がある』です。しかし、もともとパイロットになる人は健康に優れていると考えられ、これをもって放射線ホルムシス効果だとは言えないのです。

そういう統計的な難しさがあるのは事実ですが、少なくとも、ECRRが主張する『4.直線仮説よりもはるかに大きい』は否定されているのです。

ところが、そのカルト集団に帰依し、見たいと欲するものしか見えなくなったハズレ者の大学教授などが、ホームページを作ってECRRに更に権威を与えたり、反原発の市民団体が招待をして講演会を開いたり、それを大手のマスコミが報道したりするので、インターネットで検索するとそれらしい情報がたくさんあるのです。

それを見分けるのに特別な情報リテラシー技術など必要ありません。もちろん、権威ある機関の情報を必ずチェックするとか、情報の原典を調べるとかの技術は有用ですが、ただ単に、見えてるものを、そのまま素直に見るだけで良いのです。帰依した人の論理はどこかで破綻しています。現実との解離(注2)があります。それに気付くだけでいいのです。

注2:現実との解離は、たとえば

1.現実に、帰依した人がいうような被害が出ていない
2.それを、『被害は出ているが、政府が隠し、マスコミが報道しない』などと帰依した人は弁解している
3.福島で被害報告(実際には無いのですが)があると、異様に喜び、拡散しようとする
4.広島や長崎で、100mSv以下の被爆をした人たちが未だに長生きしている
5.『死の灰』を浴びて内部被曝をした団塊の世代の平均寿命が長い
6.本当であれば大問題になる筈なのになっていない

などがあります。

特に、『こんなに大問題なのに、どうして世の中の人は分からないのよ!』と思う事があれば、立ち止まって素直な目で物事を見ることが必要と思います。自分が見たいと欲するものしか見ていないのではないかと疑ってみることも大切です。

帰依する人々 その2に続く