4000mSvを浴びる その2


照射に先立って、照射中に着用するマスクの金具を抜けという指示がありました。看護婦さんが抜いてくれたのですが、『なぜ?』という疑問に対して『熱をもつからです』という答え。『???』。

高線量といっても人体に対する高線量であって、熱とか放射化とかが問題になるような線量ではないはず。


ちょっと概算すると、人体に対してX線を4000mSvの照射するということは、吸収線量でいえば4Gy、つまり、4J/kg。1kgあたり、4ジュールの熱量が入る。ジュールをカロリーに直して、4x0.24=0.96cal。つまり、1kgあたり1カロリーの熱だから、人体を水とみなせば、0.001度の温度上昇です。

線源は、10MeVの電子線をタングステンターゲットに当ててX線を出しているようなので、X線の最大エネルギーは10MeV、平均エネルギーはその1/3の3MeVあたりでしょう。このエネルギー領域のX線に対しては、光電効果、コンプトン散乱、電子対生成のうち、コンプトン散乱が支配的です。

コンプトン散乱の場合、反応断面積は軌道電子の数に比例するので、鉄だとZ=26。つまり、人体を水素とみなして(Z=1)の26倍だとしても、1kgあたり26カロリーの入熱。鉄の比熱は0.106cal/gKだから、(26/1000)x(1/0.106)= 0.25度。

電子対生成の場合は、反応断面積はZの2乗に比例するので、26の2乗の、676倍としても、6.4度の温度上昇にしかなりません。断熱状態と考えても、これですから、熱は全く問題にならない筈です。

そもそも、マスクに入っている針金が問題になるのだったら、金歯とか、点滴の針も問題になる筈。金だとZ=76で比熱0.03cal/gKですから、コンプトン散乱が支配的と考えれば(76/1000)x(1/0.03)=2.5度。電子対生成を考えて最大の76の2乗とすると、(76x76/1000)x(1/0.03)=193度です。


以上は明らかに過大評価ですが、金歯の温度上昇を感じるか照射中に舌で探ってみました。 結果は、全く温度上昇を感じない!でした。

照射装置は、X線照射口の下にベッドがあり、そのベッドが水平に動いて、全身をスキャンできるようになっていました。足と頭をホルダーに入れて、身体を固定して、20分間でベッドが2往復。これで、2000mSvです。朝と夕方に2000mSvずつ、合計4000mSvを浴びました。

午前中は上からの照射、午後はベッドが上に上がって、下からの照射でした。つまり、トーストと同様に、身体の表裏の両方から焼かれたことになります。

照射中、何か身体に感じるものがないか、いろいろ注意を払いました。むかし、CCDやMOSの撮像素子の放射線耐性を調べたことがあって、コバルト60線源からのガンマ線で照射すると、100Gyくらいから、画面に点々の損傷が現れました。目は放射線に弱く、水晶体の混濁とかが起こります。撮像素子と同様に網膜に感じて目がチカチカするのではないかと思いましたが、全く感じませんでした。

口腔の粘膜が損傷する怖れがあるというので、照射の前後にマウスジェル(右写真)を口腔内に塗り、照射が終わった時には耳下腺の保護のためにクライオセラピー(アイスノンで両頬を冷やす)をやりました。

でも、自覚症状としては全く口内の異常は感じられませんでした。


照射後に船酔い状態になる人もいるとのこと。私はまだ元気に歩けるのですが、照射室までは、車椅子を看護婦さんに押してもらって往復しました。これは、船酔い状態になった時のため。でも、照射後に歩いてみましたが、特に異常は感じられませんでした。

・・・ということで、4000mSvの放射線照射による自覚症状は今のところ、全くありません。