カナディアンロッキー2500kmの旅

2500km drive in Canadian Rockies


目次

  1. ウィスラーへ
  2. ウィスラーにて
  3. ウィスラー発、午前2時
  4. ハイウェイ1号線、早朝6時
  5. バンフ着、2時
  6. 露天風呂、午後5時
  7. バンフ発、午後7時
  8. ジャスパー通過、午前1時
  9. バンクーバ着、午前8時
  10. おわりに


はじめに

このタイトルを見て雄大なカナディアンロッキーを縦走する大旅行を想像したあなた、間違っています。このタイトルを更に正確に言うと、「カナディアンロッキー2500km、いきあたりばったり30時間車の旅」というのです。無計画にせかせかと車で走り回っただけの、大失敗旅行がその実体です。

今回の旅行の登場人物はたった二人だけです。

小栗さん:28才。独身。鹿児島の鹿屋市出身。大食漢で大酒飲み。とても活動的で、何にでも興味をもってやってみる態度は見習うべきものがある。だけど、一方ではその活動にブレーキをかける人(もちろん女性)もそろそろ必要かと思う。

私:42才。でも、精神年齢は20代。先日の成人病検診の時も「血管の若さは20代」と言われた・・・関係ないか。

1.ウィスラーへ

 バンクーバの北、約100kmのところに北米有数のスキーリゾート地「ウィスラー」があります。ここで、9月に私の仕事に関わる国際会議が開かれました。ウィスラーでは数年前に一度スキーをしたことがあって、その良さは十分にわかっています。そこで、この機会にウィスラーだけでなく、周辺も含めて観光したいと考えました。

 まず、日本を出発する前に、如何に一週間を有効に使うかということを一緒に参加する小栗さんと相談しました。

 会議は月曜日に始まり、私の講演は水曜日の朝一番、小栗さんのポスター発表は水曜日の午後です。そして、木曜日はエクスカーションということで、観光日に充てられ発表はありません。ということは、月、火、水と働けば、水曜日の夕方から日曜日の午前中まで4泊3日の時間がとれそうです。出席者が数百人の大きな会議ですから我々だけがエスケープしてもわかりません。

「ムフフフ」
「ばっちりですね。これは、カナディアンロッキーまで行けますよ」
「飛行機で飛んでもいいし、雄大な荒野を車で走り回っても良い」
「いいですねえ」
「なにしろカナダだからなあ」
「カナダですよねえ」

我々の夢は広がるばかりでした。

 ところが、ウィスラーに着いて詳細な会議プログラムをもらうと、我々の発表は予定通り水曜日ですが、重要な発表が金曜日の午後にあることがわかりました。金曜日には夕食会(バンケット)も予定されています。

「このテーマは前半にやるべきものじゃないの。何で、金曜日なの」
「バンケットも普通は会議の中日ですよねえ。金曜日なんかに、やるなよなあ」

 二人してぼやきましたが、しょうがありません。金曜日の夕食会が終わって出かけたとしても、土曜日1日しかありません。これではとてもカナディアンロッキーは無理です。思い切って金曜日の発表とバンケットをエスケープするという選択肢もありますが、そうすると会議に参加した意味は半減してしまいます。

2.ウィスラーにて

 悲嘆に暮れた私たちでしたが、せめてウィスラーを楽しもうと、会議場となっているホテルではなくビレッジの中央広場に近い小さなホテルに宿をとりました。ホテルを一歩出れば、カフェやレストラン、ショッピングのための店が軒を連ねていて、思い思いの服装をした観光客がのんびりと歩いています。プールではハイレグ水着の女の子とはいきませんが、家族連れが楽しそうに日光浴しています。

 会議の合間を縫ってカフェに陣取り、毎日ビールを飲んでいました。ビレッジは直径が1km程の歩いて回れるほどの小さな町ですから、散歩をしても知れています。少し歩いてはカフェでビールを飲み、会議で疲れたといってはビールを飲んでいました。

 夕方になるとレストラン探しが楽しみです。リゾート地ですからフランス料理や中華料理はもちろん、各種のレストランがあります。我々が最も気に入ったのは日本料理店でした。広場に近いビルの二階にあり、握り寿司とてんぷら、ビールや日本酒で一人、4000円くらいでした。ここウィスラーは海から少ししか離れていませんから、魚介類は新鮮です。

 ある日、会議の合間を縫ってゴンドラに乗り、ブラッコム山に登ってみました。数年前にスキーに来た時は一面の雪だったので良くわからなかったのですが、山は中腹まで背の低い灌木で覆われています。ゴンドラの中央駅を通過した時に、「熊、出現中」という看板がありました。その文字の下に「18番ポール」という場所が書いてあります。

 ゴンドラが18番ポールまで来たときに探してみると、なるほど、灌木の中で熊が木の実を食べています。野生の熊を見るのは初めてです。そこそこ大きな熊で、散歩中には出会いたくないなあというタイプです。ところが、熊がいるすぐ側を登山道が通っていて、そこを自転車に乗った若者たちが山を下っていました。ゴンドラからは両者が見えますが、お互いは気付いていないはずです。こういうのどかな(?)状況は、やはりカナダならではでしょう。

 山頂に立つと、遠くの山々まで遠望できました。足下にはいくつかの湖が点在し、雄大な自然は我々を呼んでいるようです。

「カナディアンロッキー、行きたかったよなあ」
「せっかく、レンタカーを借りたのに」

また、ひとしきりぼやきました。

3.ウィスラー発、深夜2時

 水曜日の発表が終わり、会議場を出ながら考えました。せっかくここまで来ていて、カナディアンロッキーを見ないのは私の主義に反します。観光はできないまでもせめて、カナディアンロッキーに立ちたいものです。飛行機で日帰りという手もあります。

 地図を広げてみると、バンクーバからジャスパーまで1000kmほどです。私は例年、水戸から郷里の松山まで1050kmを車で帰省していますし、以前にボストンからナイヤガラ滝まで往復1800kmを一日で走破したことがあります。一日半あれば、仮眠時間も含めて車で往復できそうです。

 小栗さんに言いました。
「やっぱり、カナディアンロッキーに行きたい。今晩出発すれば、金曜日の朝には帰れると思うんですが小栗さんはどうしますか?」
「はい、奥村さんはそう言うと思っていました。もちろん行きます」
期待した通りの答えが返ってきました。

 そこで、水曜日の夜は早々にホテルに引き上げ、ホテルのフロントに早朝に出発することを告げました。ホテルのフロントは24時間オープンなので No Problem です。夜10時にはそれぞれの部屋に戻り、出発の支度をして2時前まで眠りました。

 支度をして出ると、小栗さんも準備万端で待っていました。午前2時のウィスラービレッジは眠りの中です。満月を過ぎたばかりの月が周囲の山々を照らしています。さあ、出発です。

4.ハイウェイ1号線、早朝6時

 ウィスラーを出発したものの、どういうルートでどこを目指すのかはまだ決めていませんでした。私は以前に「世界の国立公園」という本を愛読書にしていたことがあり、「ジャスパー国立公園」という名は良く知っていました。ところが小栗さんはカナディアンロッキーの中心はバンフだと言います。確かに、「バンフ国立公園」というのもあったような気がします。ガイドブックにもバンフの方のページが多いようです。

「よしっ、バンフへ行こう!」
簡単に決めた私たちは地図で最短距離を探しました。一旦、バンクーバまで戻るとハイウェイ5号線があって、道がよさそうなのですが、ちょっと戻る感じになります。ウィスラーから北へ向かい、山越えをして1号線に出る道が最も近そうです。

 さて、ここで大ざっぱに北米の道路システムを書いておくと、アメリカでは全土を碁盤の目のように結ぶインターステートハイウェイという高速道路があります。順番に番号が振ってあって、東西に走る道路は南から10号線、20号線、30号線というふうにほぼ10番毎に偶数番号が振ってあって、最も北の道路は90号線です。一方、南北に走る道路は西から5号線、15号線、25号線と奇数番号です。即ち、例えば55号線というインターステートハイウェイがあれば、予備知識がなくても、アメリカ中央部を南北に結ぶ道だとわかります。これは日本のように何の意味もなく国道の番号が振られているのと比べると遥かに優れたシステムです。

 カナダもそれに準じた道路網を持っていて、バンクーバから米国との国境沿いに東に伸びるハイウェイ1号線があります。それをそのまま進めばバンフ、カルガリに着くはずです。

 ともかく、その大きな道路に出ることをまず第一目的にウィスラーから北に向かい、それから東に向かう山越えの道路に入りました。途中の小さな小さな村で、24時間営業のガソリンスタンドに寄り、ガソリンを補給するとともにサンドイッチや牛乳などを朝食として買いました。道はだんだんと細く、急になってきました。

 人家もなく、月明かりの中で頂上がぼんやりと見える山々の中を進みます。ヘッドライトに照らされた道路以外は全て幻想の世界です。アメリカの砂漠地帯の真ん中をひとりで走る時にも感じた、通常の世界から遊離したような感覚はなんともいえません。

 3時間ほどで、カムループスという町を通り、フリーウェイにでました。東に向かう我々の前に、朝日が昇ってきました。ここからは、ずっと大きな道のはずです。広々とした牧草地や丘を越え、湖の畔にある町を通り、一路バンフに向かいました。

 運転は、小栗さんと2時間ごとに交代です。小栗さんは右側通行は初めてで、方向指示器を出そうとしてワイパーが動いたり、右折のできる赤信号でじっと止まっていたりしますが、道が広いので運転自体は大丈夫そうです。そもそも、趣味のひとつが「カート(ゴーカートのような車に乗り、レースをする)」という男ですから、運転技術はあるはずです。

 ただ、小栗さんはけっこう運転トラブルを起こしていて、一度はテレビでF1を観戦した後、深夜コンビニに走り、赤信号からのスタートの際に車がみごとにスピンして縁石に衝突しました。つい、F1のスタードダッシュを思い浮かべたのだそうです。その交差点はその後、「オグリコーナー」という名前になり、いまでも破壊された縁石が残っています。また、寮の渡り廊下に正面から突っ込んでいき、壁にきれいな車の形の穴を残したというエピソードもあります。

 ともあれ、小栗さんを信頼するしかありません。彼の運転の時には助手席を倒し、睡眠をとりました。

5.バンフ着、2時

 「うわ〜!」
という小栗さんの声で目が覚めました。

 バンフまであと100kmくらいのロジャーズ・パスというところで、長い坂を登ると視界が開け、氷河をいただいた峰が見えたのです。カナディアンロッキーの入り口です。

 「なかなかのものですねえ。写真を撮りましょう」
「いやいや、これからですよ。もっといい景色になりますから、まあ、抑えて抑えて」
と、はやる心をおさえつつ、バンフの方向に道をとりました。

 ところが、バンフに近づくにつれて山々は低くなり、普通の景色になりました。途中、レイク・ルイーズという有名な湖があり、多くの観光客と一緒に見物をしました。確かに、湖は美しく対岸には氷河が見えますが、大勢の観光客と一緒では雄大な大自然に包まれているという実感がありません。

 昼の2時頃にバンフに着きました。バンフアベニューというメインストリート沿いにたくさんの土産物屋が並び、レストランやモーテルの集まった大きな町です。とりあえずバンフアベニューの最も賑やかな場所に車を止め、歩いてみることにしました。

 驚いたのは、日本人の多さ。メインストリートを歩いている二人に一人は日本人です。数十人の団体さんや二人連れの女の子、グループ旅行らしき若者たちで町はいっぱいです。特に、日本人が集まっている店があって、入ってみると大橋巨泉の店でした。店の中は日本の土産物屋と変わりません。日本語で、「これと、あれを3つずつ」、「これ大きすぎる、もっとちいさいの」などと騒々しい限りです。

 そうです。思い出しました。巨泉がテレビでバンフバンフと騒いでいたのです。彼はここに土産物屋を持っていたのですね。日本の旅行社のパック旅行にバンフ泊というのが多かったことも思い出しました。

 しばらく歩いたのですが、単なる観光町です。ウィスラーにあるようなリゾートっぽさもありません。周囲の山もそれほど高くなく、氷河など全く見えません。そこで、腹がすいていたこともあり、レストランに入って作戦をたてることにしました。

 日本人が来ないような街はずれのレストランに入り、何はともあれビールを頼みました。サラダバーへ行くとラディッシュがあります。私はビールのつまみとしてこれが大好きです。大量に取ってきて、塩を振りかけてかじりつきました。ビールの喉越しと、ラディッシュのほろ苦さが何ともいえません。そして、おもむろにガイドブックを取り出しました。

「え〜っと、バンフ、バンフ」
「バンフは何があるんですか?」
「まず、いま歩いた街の案内図がある」
「それ以外は?」
「有名なホテルがあるみたいだよ。スプリングスホテルというカナディアンロッキーを象徴する由緒あるホテルらしい」
「・・・・・」
「う〜ん、ホテルは単なるホテルだよなあ。ここまで来てホテルを見てもしょうがない」
「他には?」
「あっ、ボウ滝という滝がある!」
「それっ、それですよ。カナディアンロッキーの滝!どこにあるんですか?」
「その有名なホテルの裏手かな」
「いきましょう!」

 食事のあと、早速車に乗ってボウ滝に向かいました。街から歩いていけると書いてあるくらいですから、ほんの5分で着きました。駐車場に車を置き、数十歩歩くと、高さ3mほどの滝が見えます。幅は20mくらいと比較的幅のある滝ですが、何のへんてつもない、滝というよりも大きな堰といったものです。

「・・・・・」
「これがボウ滝?」
「袋田の滝の方がよっぽど雄大ですね」
絶句した我々でしたが、一応、他の観光客がするように滝の前で写真を撮りました。

 それから、スプリングスホテルの方にも回りました。バンフ国立公園のカレンダーには必ずといっていいほどでてくる有名なホテルのようですが、やはりホテルは単なるホテルです。

 そこで、更にガイドブックを調べました。
「そこのサルファー・マウンテンという山にゴンドラがあって、頂上に登れるんだって」
「山の上に登れば、カナディアンロッキーが一望できるかもしれませんね」
「その横にはアッパーホットスプリングスという露天風呂もある」
「いいですねえ」
「まあ、これでいいか」

 話が決まって、山への道を登り始めました。

6.露天風呂、午後5時

 10分ほど登ると山の中腹にゴンドラの駅がありました。早速、駐車してチケットを買おうとしたのですが、窓口が閉まっています。時間を見ると、ちょうど最終のゴンドラが出てしまった後でした。「こんな低い山に登っても景色は知れてるよね」
と憎まれ口をたたいて、しょうがないので、露天風呂に向かいました。

 入場料と貸水着やタオル、ロッカーなどがセットになって5ドルほど。それを払って入りましたが、温泉というよりも温水プールです。ヒョウタン形をした長径30m、幅15mほどのプールです。老若男女、思ったよりも沢山の人がいて、てんでに寝そべっています。プールの半分ほどは2m以上の深さがあり、結構泳げます。じっとしていてもつまらないので、頑張って泳ぎました。泳ぎ疲れてプールサイドから外を見ると正面にマウント・ランドル、北に目を移すとバンフの街の向こうにカスケード・マウンテンが見えます。いずれも、ガイドブックによると3000m級の山です。

 「こうしての〜んびりできるのが、海外旅行のいいところだよなあ」とか言いながら小栗さんと暖かい湯と景色を堪能していました。しかし、なんだかカナディアンロッキーという気がしません。これなら、八幡平あたりの東北の温泉でのんびりしているのと変わりありません。

 二時間ほど、温泉に入っているうちに夕闇が迫ってきました。会議場に翌日の昼までに着くには、こちらを夜10時には出発する必要があります。バンフに降りてレストランで食事をすればちょうどいい時間です。しかし、何となく物足りない私は、せめてジャスパーを回って帰ることを思いつきました。ジャスパーまでは北西に300km、そこから5号線を南下するとカムループスという町で1号線と交差し、そのままフリーウェイを直進するとバンクーバに帰ることが出来ます。5号線はそのまま米国のインターステートハイウェイ5号線となり、シアトルを通り、サクラメント、ロスアンゼルスを経由してメキシコ国境に近いサンディエゴまで至る訳です。

 小栗さんに提案すると、やはり物足りなく感じていた小栗さんは、一も二もなく賛成しました。

7.バンフ発、午後7時

 そうとなればバンフにはもはや用はありません。バンフを午後7時に出発し、1号線を戻りました。レイク・ルイーズのところで1号線から別れ、93号線を北上します。93号線に入った後は行き交う車も全くといっていいほどありません。

 おおむね真っ直ぐな道ですが、わずかに高低があり、時々曲がりくねった峠道もあります。やがて月が登ってきて月明かりの中で両側の山々の稜線が見えました。道路からの高さは1000mくらいでしょうか。泳ぎ疲れた私は小栗さんに運転を任せ、眠ってしまいました。

 2時間ほど北上したところに、ガソリンスタンドとモーテルがありました。ガソリンを補給して、ついでに売店に寄りました。割と大きな売店で、絵はがきやインディアン製品などのみやげ物を売っています。そこでカレンダーやキーホルダー、ネックレスを買いました。カウチンセーターがあったので見ると、なかなか品質が良く、バンクーバで買う値段の半額くらいだったので小栗さんはそれを購入しました。

 そこを出て、またひとねむりして起きてもやはり同じ景色です。両側に山があり、真っ直ぐな道が伸びています。
「単調な道ですねえ。ジャスパーまであとどれくらいですか?」
ねぼけた声で小栗さんが聞きました。あまりの単調さに小栗さんも眠りながら運転していたようです。
スポットライトをつけて、ガイドブックを取り出しました。それまでは縮尺の大きな地図しか見なかったのですが、もう少し詳細な地図をと探しているうちに、この93号線についての記述がありました。

 ガイドブックには、この93号線は「アイスフィールド・パークウェイ」と呼ばれる世界屈指の観光ルートと書いてあります。道の両側に氷河をいただいた3000m級の山々がそびえ、スイスの有名な登山家をして「ヨーロッパアルプスが10個集まったようだ」と感嘆せしめた道のようです。道路自体の標高が2000mあるので、そこから見える山々が1000mくらいにしか見えなかったのです。道路沿いにはそれらの山々の他に、ボウ・レイクやペイト・レイクなどの神秘的な湖、深い樹海や渓谷が続き、大自然の偉大な景色に圧倒されるだろうと書いてあります。我々はそのど真ん中を走りながら「単調な道だよなあ」とか言っていた訳です。

 車を止めて、ライトを消してみました。月明かりに浮かぶ稜線は確かに雄大なような気がします。正確な位置を確認してみると、バンフ国立公園とジャスパー国立公園の境にあるサンワプタ峠を既に越え、ジャスパーのすぐ近くまで来ていることがわかりました。アイスフィード・パークウェイの殆どの名所は通り過ぎてしまったことになります。

 もう一度バンフに戻って、1号線を帰るという手もありますが、数時間のロスになり、ウィスラーに昼までに戻るれるかどうかは微妙です。また、ジャスパーも見てみたい気がします。残念ですが、そのままジャスパーに向かうことにしました。

 せめて、何かないかというので地図を探すと、ジャスパーの近くにアサバスカ滝という滝がありました。93号線からほんの少し入ったところです。しばらく行くと、なるほど「アサバスカ滝へ」という標識がありました。これまでもこういう標識が沢山あったのに我々は見逃していた訳です。その標識に従って左折し、樹海の中を1kmほど行くと大きな駐車場がありました。駐車場には車は1台も止まっていません。入り口にドアを閉めた土産物屋らしきものがありましたが、その他には何の建物もなく、街灯もありません。

 車を止めてライトを消すと、真っ暗闇になりました。樹海の中なので月明かりも届かず、本当に何も見えません。が、確かに遠くから滝の音がします。ガイドブックには「アサバスカ川の水路はこの付近で急に狭くなり、斧を打ち込んだ後のような深い渓谷が始まる。アサバスカ滝の落差は22m、鬱蒼とした森のなかで聞く滝の音は、どこか幻想的だ」と書いてあります。深夜、誰もいない真っ暗な森の中で聞く滝の音は幻想的を通り越して不気味です。

 音で滝の方向はわかりますが、懐中電灯なしでは滝までの道がわかりません。私はキーホルダー兼用の小さなライトを持っていたのですが、こんなものでは不安です。数m四方しか見えないので、一旦車を離れると駐車場の中で遭難しかねません。

 「ちょっと無理ですね」
さすがの小栗さんも躊躇しています。
「滝まで行ってもこの暗さでは見えないだろうし」
「まあ、いちおう滝の音を聞いたということで・・・」
「まあ、そういうことで・・・」
と、また、まあまあで済ませてしまいました。

8.ジャスパー通過、深夜1時

 小栗さんと運転を代わり、ジャスパーへ向けて走りました。アサバスカ滝からジャスパーまでは30kmほどです。助手席に座った小栗さんは眠りに落ちています。ジャスパーの手前で大きな交差点に来ました。バンクーバへ戻るにはこれを左折して16号線に入り、20kmほど進んでから更に左折して5号線に入らなければなりません。時計を見ると深夜1時です。ここからバンクーバまでは900kmくらいですから昼前には十分着けそうです。

 少し時間がありそうなので、ジャスパーの町をみてみることにしました。そのまま93号線を直進すると鉄道の線路の下を通り、500mほどでレストランやモーテルが並ぶ通りにでました。右手に行くと、ジャスパー駅があります。そうか、さっき横切ったのは大陸横断鉄道だったのかと納得です。「大陸横断鉄道でのカナディアンロッキー越え」。以前に「世界の国立公園、北米編」を見ながら憧れたものです。もちろん、今でも憧れています。いつの日か大きくなったら、じゃなくて、暇になったら是非やってみたいことのひとつです。

 バンフでは土産物店やレストランが密集していましたが、ジャスパーは密集というよりも点在しているという感じです。駅前通りのみ、わずかに建物が立ち並んでいますが、その他の通りは建物と建物との間に十分な空間があり緑に包まれています。周囲にそびえる山も高そうです。カナディアンロッキーの基地としてはバンフよるもはるかに雰囲気が良さそうでした。

9.バンクーバ着、午前8時

 ジャスパーを後にして、一路、16号線を西に向かいました。ガイドブックによると5号線に出る直前にカナディアンロッキーの最高峰ロブソン山があります。車を止めてライトを消すと、月明かりの中で確かにそれらしい山が確認できました。

 5号線を3時間ほど南下すると小栗さんが目を覚ましました。深夜営業のレストランで長距離トラックの運ちゃんに混じって食事をした後、運転を交代し助手席で眠りました。

 目覚めると、朝日を浴びて車は進んでいます。道もきれいなフリーウェイです。小栗さんに確認するとバンクーバのすぐ近くのはずだといいます。朝のラッシュで道も混んできました。午前8時、バンクーバ到着です。

 バンクーバは本当に美しい都会です。緑と湖の中に高層ビルが立ち、すぐ背後にはグラウスマウンテンなどの山々が連なります。だいたい、世界に都会はたくさんあっても、市内に原生林のある街などなかなかあるものではありません。そのスタンレーパークの中を通って、なんとかゲートブリッジというカナダ最大の吊り橋を渡り、北西に進路をとればウィスラーまではほぼ一本道です。

10.おわりに

 この旅行の大失敗はバンフに行ってしまったことです。バンフはいわば宿泊のための基地であり、そこからカナディアンロッキーのいろいろな観光地にバスや車で行くのです。しかも、日本人が集まる、都会化された観光基地です。確かに街では日本語で食事ができ、日本語で買い物ができるかもしれませんが、現地の生活に浸るというような本当の海外旅行には向かないと思います。

 以前にスイスを旅行した時も、グリンデンワルドというアイガーの麓にある町が、日本人専用タウンになっていて、街を歩く人の半分以上が日本人でレストランのメニューも全て日本語があるという奇妙な体験をしたことがありますが、どうして日本の旅行者というか、旅行社は、同じところに宿泊したがるのでしょうか。せっかくの外国旅行ですからできるだけエキゾチックな雰囲気を味わった方が楽しいと思うのですが。

 まして、カナディアンロッキーです。パリやニューヨークの大都会ならば都心の最も賑やかなところに宿をとるのは納得できますが、ここに来てまで人混みにまみれて何の意味があるのでしょうか。せめてジャスパー、できれば名も無い湖と森林に囲まれた静かな村に滞在して、ハイキングやカヌーで大自然の息吹を肌で感じるべきです。団体でバンフに泊まり、自分たちだけのバスでお決まりの湖や氷河を見るのは本当の旅とはいえないでしょう。

 ともあれ、我々がもし最初にジャスパーに向かっていれば、朝日に輝くロブソン山、森と湖に囲まれたジャスパー、そして荘厳なアイスフィールド・パークウェイを堪能できたはずです。バンフに土産物屋を持つ大橋巨泉に騙されたばかりに貴重な時間をバンフで無駄にしてしまいました。まあ、ガイドブックを全く読まなかった我々が最も悪いといわれれば、その通りなのですが。それにしても、ガイドブックもバンフのボウ滝やレストラン、みやげもの店にあんなにページを割かず、本当の見所である湖や滝、ハイキングコースなどを中心に書いて欲しいものだ・・・と愚痴をいうのはこのくらいにしましょう。

 今度、カナダに来る時には、十分な休暇を取って、キャンピングカーをバンクーバかシアトルあたりでレンタルして、イエローストーン、バンフ、ジャスパーと回りたいものです。今度は十分にガイドブックで研究してから。

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