山岳耐久レース試走会その1 −富士山に登ろう1−

Let's climb up Mt. Fuji


目次

  1. はじめに
  2. 五合目
  3. ご来光
  4. 海抜3776メートル
  5. 下山


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1.はじめに

日本山岳耐久レースは、72kmの山道を24時間で駆け抜けるものです。昨年のレースでは、準備不足の上にスタート時間に遅れるという大チョンボをした我々でしたが、同じ失敗は繰り返しません。着々と(?)準備を進め、その一環として富士山に登ってみることにしました。

山岳コースの所要時間に関しては、「奥村の重ね合わせの法則」が有名です(ウソ)。これは、垂直移動と水平移動に要する時間を分離できるというもので、以下の式で表わすことができます。

T= Th + kTv

T:全体所要時間
Th:水平移動に要する時間
Tv:垂直移動に要する時間
k:垂直移動時の山道の悪さに関する係数

このうち、水平移動に要する時間については、今年2月のフルマラソンでのデータがあります。減速効果を考慮した「小原の式」を使えば、72kmまで外挿することも可能です。各人の固有データを元に、Thを計算したところ、9時間〜12時間という値がでました。

垂直移動に要する時間については、実験準備棟の階段を用いて得られた値があります。20分間で5階相当の階段を20往復できたというもので、獲得した高さを時間で割れば、900m/時という値を得ることができます。山岳耐久レースのコース係数は1.5(なかなか厳しい)、積算高低差を4500m(最大高低差の3倍)と仮定すると、kTv=7.5時間になります。

従って、日本山岳耐久レースにおける我々の所要時間は、16.5時間〜19.5時間となり、十分に完走可能と考えられます。

しかし...
「本当にそうなのだろうか?」
メンバーの一人から疑問が呈せられました。
「垂直移動時も減速効果を考慮すべきではないか」

確かに、垂直移動に要する時間については、もっと長時間にわたるデータが必要かも知れません。
「やはり、数時間以上のデータが必要だよね」
「う〜む、もっと大きな垂直移動距離を稼げる所というと...」
「ビルなら、横浜ランドマークタワー。高さは270mくらいだっけ」
「東京タワーは知れてるし...」
「う〜む...」
「ポン(手を打つ音)、やはり日本で最も高い所というと、富士山。富士山に登ろう!」


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2.五合目から

メンバーは8人。山岳耐久レースエントリー予定の、智くん、卓ちゃん、谷やん、風海くん、美恵子さん、私の他、真紀ちゃんと、浅野さんが特別参加です。真紀ちゃんの体力はドリンクラリーで証明されていますし、浅野さんはホノルルマラソンの完走経験を持つ頑張りやさんです。

天気予報では「上空の気流の状態が不安定」とのこと。曇り一時雨という予報もありました。河口湖インターを降りても富士山はすっぽり雲に覆われ、裾野さえも確認することができません。今回は嵐男(雨男のスーパーバージョン)のオグリさんの参加がなかったので、天候は良いものと考えていたのですが、雨が降っているのかもしれません。

「下に雲があるということは、その上は晴れているということよ」
気楽な智くんの意見にみんなは賛成しかねています。

ところが、スバルラインをバスに乗って登り、3合目から4合目あたりの霧を抜けると、さっと視界が広がって真っ青な空が見えました。下は見渡す限りの雲海です。富士山の頂上まで遠望できます。
「これはOKですよ。風も無いし」
どうやら絶好の登山日和のようです。

準備をして、夕方6時に、五合目を出発。さあ、がんばるぞ。


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はるか下に雲海が広がります。夕暮れの明かりの中を元気に登っていきます。このあたりは、全然、余裕です。


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七合目に到着。風も無いし、ちょうど良い気温で快適です。適度な運動で汗をかいて、みんなの顔も爽快です。

空は満天の星空。あれが、白鳥座。天の川をはさんで、わし座のアルタイルとこと座のベガ、などと星座のお勉強をしながら登りました。星空を眺めていると、5分に一回くらい、流れ星が空を横切ります。ペルセウス座流星群のためか、普段よりも少し流れ星の数が多いようです。

夜10時。雲の間から下弦の月が昇ってきました。月の光が雲海に反射して、とても神秘的です。下界のあかりは雲海に隠れて一切見えず、月と星の光だけがあたりを照らします。その中を、点々と登山者の持つあかりが頂上まで続いていました。
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本八合と呼ばれる3400m地点に到着。ここまでくれば、頂上はすぐそこです。あまり早く頂上に登っても、時間つぶしに困るので、ここで少し休んでいくことにしました。ベンチに座り、断熱シートをかけて、しばらく眠りました。

午前2時半。山小屋で泊まっていた人達も出発しはじめました。我々も本八合を出発しましたが、急に人の数が増え渋滞のために前に進めません。10メートルほど進んでは、1分ほど停止を繰り返して9合目まで来ました。

9合目からは、更に渋滞しています。登山路は3車線(3人線というべきか)で、その両側は、くずれ易い瓦礫のために立ち入り禁止です。無理に立ち入ると、落石を起こして極めて危険なのです。そのため本線で疲れ切って立ち止まる人が居ると、すぐに渋滞してしまうのです。数歩、進んでは5分くらいじっと待つという状況になってしまいました。じっとしていると、眠気が襲ってきます。酸素が薄いために、睡眠モードになると、高山病の症状が出てきて危険です。


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3.ご来光

朝4時40分。東の空はすっかり明るくなっています。渋滞のために全く進めず、これは、ご来光までに頂上に着くのは無理と思われたその時、3車線だった道が10車線以上になりました。登山路は最後の100mほど岩場になっていて、広がって登っていくことができます。急に人の流れが良くなりました。頂上はすぐそこ。これは、ひょっとするとご来光に間に合うかもしれません。

眠っていた体を鞭打ち、一気に100mほど、駆け上がりました。4時50分。頂上の鳥居をくぐりました。浅野さんや智くんも続いてきています。点呼をしてみると全員が到着しているようです。ご来光を見る場所を探そうとしたその時、頂上にいる全員から「うわあ!」という声があがりました。ご来光です。

早速、カメラを構えてパチリ。雲海から顔を覗かせている太陽を収めることができました。


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ご来光の騒ぎが終わり、我にかえると、息はたえだえ、頭はがんがんしています。みんな、最後の100メートルの全力疾走はこたえたようです。美恵子さんは、「吐きそう!」と行って、どこかへ行ってしまいました。山小屋に入って何か食べようとしましたが、体調を整えるのが精一杯で、とても食欲など出ません。

浅野さんは倒れて眠りはじめました。智くんは、パソコンを出してモバイルを始めました。


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浅間神社奥の院の隣に富士山頂郵便局があります。みんなで絵はがきを買って残暑見舞いを出しました。右の写真は晋くんへのハガキ。


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真紀ちゃんも絵はがきをポストに。
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4.海抜3776メートル

実は、山小屋が建ち並び、みんながご来光を拝む場所は富士山頂ではありません。殆どの人はそこで帰ってしまいますが、本当の頂上は、噴火口の反対側。富士気象台があるところが3776メートルの最高地点なのです。

浅間神社の方からは、最後に50メートルほどの急坂を登ります。たった50メートルとはいえ、空気が薄い中を登るのはなかなか大変です。


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卓ちゃんが倒れて吠えています。あの元気な智くんでさえ、高山病と睡眠不足で青白い顔をしています。


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本当の山頂に立ちました。

智くんが今回の富士登山でやってみたかった事。それは、日本で一番高いところで、ひげ剃りをすることでした。そのために電気ひげ剃り器をわざわざ持ってきていたのです。

日本最高峰の碑の前、澄んだ青空をバックに朝のひげ剃り。日本広しといえども、これだけ爽快な朝のひげ剃りをしている人は居ないでしょう。


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卓ちゃんは、碑の前でボディビル体操を始めました。

その他、各人がそれぞれテーマを決めて写真を撮りました。真紀ちゃんは、風海くんを立たせて杖を振り下ろし、「富士山頂で面を打つ女」をきめました。また、美恵子さんは、「富士山頂でバランスをする女」、浅野さんは「富士山頂で腕立て伏せをする女」がテーマでした。


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私も、パソコンと携帯電話を手に、「富士山頂でモバイルをする男」をきめました。富士山は、ドコモのアンテナがばんばん立つのです。その瞬間、私は「日本一のモバイラーであった」といっても過言ではないでしょう。


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あと、ついでにお約束の写真も。近くでお弁当を食べていたおじさんとおばさんのグループ、美しい風景をバックに写真を撮っていた女性連れの若者グループ、どうもすみませんでした。

あと全員で並んで記念撮影をしましたが、これ以降、智くんのパワーがアップ。本人によると「お尻から元気玉が入ってきた」とのこと。


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5.下山

下山路は砂利道です。砂埃を上げながら、快調に降りていきます。


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延々と続く下山路に、浅野さんがペースを乱してしまいました。智くんと谷やんが両腕を抱えてサポート。


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ゴールです。みんなで手を取り合って、万歳。


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さて、今回の富士登山、山岳耐久の試走会として大成功だったと思います。3000mを越える高地でのインターバルトレーニングとともに、24時間行動できる気力を養うことができました。垂直移動の貴重なデータを取ることもできました。3000mを越える高地では、酸素不足のために行動が極めて制限されることもわかりました。

また、天候にも恵まれ、本当に気持ちの良い登山をすることができました。後で、ペンションのオーナーに聞くと、この夏は天候不順で、これほど天気の良いのは奇跡に近いとのこと。嵐男の誰かさんが居ないことで、これほど違うとはね。


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