青森のこころ −その3−


青森のこころ その1青森のこころ その2が面白かったと評判が良かったので、もっと青森あるあるを書いてみたいと思います。

11.すぐそこは30km

下北半島の付け根の野辺地町から、むつ湾沿いに北上するはまなす道路があります。写真は、その途中の三叉路にある看板です。

『下北名物の店 生うに丼 松楽』と書いてあって、矢印があります。

このような場合、通常ならその三叉路から入ってすぐに、生うに丼の食べられる『松楽』があるでしょう。ところが、この『松楽』、下北半島を横断して細い道を山越えをした30km先にあるのです。青森の距離感に慣れていなかった私は、生うに丼につられて遭難するところでした。


六カ所村に新規に研究施設ができて、第一陣が異動した最初の年、近くの温泉で忘年会を開くことになりました。その案内状には六ヶ所村から車で向かう人のために『橋を渡って、最初の信号を右折してすぐ』と道案内がありました。東京や茨城から異動したばかりで、青森県の距離感に慣れていなかった我々は、橋を渡ってから最初の信号まで 25kmあること、右折してすぐというのが 5km であることを知らず、信号を見落としたと思って引き返す人、右折した公園の入口付近で迷走する人、など道に迷う人が続出しました。

家から最も近いイオンショッピングモールへ買い物に行こうとした私の妻は、車のナビをセットしました。ところがナビは『道なりです』と言ったまま、20kmたっても30kmたってもうんともすんとも言わないのです。心配になった妻は、車を停めて、ナビをセットし直しました。しかし、ナビはやはり『道なりです』としか言わなかったのです。

12.朝市がすごい

能登の朝市とか函館の朝市とかが有名ですが、日本最大の朝市は八戸市の館鼻岸壁の朝市です。

出店数は350軒を越え、朝取りの新鮮な魚介や野菜・果物はもちろん、パン屋さん、ケーキ屋さん、中華、インドカレー、うどん、蕎麦、コーヒー、総菜、花、骨董品から、木工細工や刃物まで、殆ど何でも揃います。中古車屋まで出店していて、キャンピングカーの中古が安く売られていて心が動きそうになったことがあります。

この朝市が開かれるのは、日曜日の夜明けから朝8時半くらいまで。朝7時を過ぎると、いい物は売れつくし、片付けを始める店も出始めるので、夜明けとともに出かける必要があります。


館鼻岸壁の朝市は、観光客も多いので、朝8時半くらいまでやっていますが、市内のあちこちで毎日開かれる朝市は夜明けから朝7時までです。朝7時以降のラッシュ時までに朝市の道路はすっかり片付けられているのです。

市内の朝市では、自分の家で朝取りした野菜や果物、それに青森に多い養鶏場の産みたて卵など、目を疑うほどの安さです。青森の朝市は生活の中に溶け込んでいるのです。

縄文時代の物々交換の記憶、そして互いに施し合う青森のこころが、これほどの朝市文化を作っているのだと思います。家で野菜がどっさり採れた。だから他の人にも分けよう、お金は少しもらえば十分だ。だから、安いのです。


13.温泉天国

上の図は、全国の県庁所在地のある都市の1世帯あたりの「温泉・銭湯入浴料」支出年間金額(2011年)です。

トップは、青森市。全国平均2,426円に対し、実に3倍以上となる7,604円です。青森の物価を考えれば実質的な支出はもっと多くなるでしょう。

2位は富山市。銭湯の多い街として有名です。そして、3位が私の故郷、道後温泉で有名な松山市です。朝の太鼓とともに、朝風呂する人も多いのでしょう。温泉県で売り出している大分県の大分市が意外と低いのは、観光用の温泉はたくさんあっても、市民の日常生活に溶け込んでいないということでしょうか。

青森は温泉の宝庫です。豊富な雪解け水が温泉となって県内の至る所に湧き出しているのです。基本、掛け流しなので、ボイラーなどの設備なし。従って、入浴料は100円、200円のところも多く、高くても400円です。温泉の少ない八戸市の銭湯などは450円と、掛け流しの温泉よりも高くなっています。

八甲田山中の酸ヶ湯温泉、谷地温泉、蔦温泉、日本海に沈む夕日の美しい不老ふ死温泉、県内最大の浅虫温泉、津軽海峡を臨む下風呂温泉などの有名な温泉ばかりでなく、『日本一の温泉銭湯』としてマニア垂涎の新屋温泉、日本一の黒湯の東北温泉、強烈な硫黄泉の山内温泉など、県内至るところに特徴のある温泉が分布しているのです。

青森の温泉の特徴は、家族風呂のある温泉が多いということです。大浴場とは別に、5、6部屋の家族風呂があり、それぞれ6畳の和室に更衣室やトイレが付き、内風呂の他に、露天風呂のある家族風呂もあります。料金は1時間1000円が相場です。青森の人達は家族で温泉に行き、楽しむのです。

青森の温泉については、青森温泉便りに詳しく書きましたので、興味のある方はご参照ください。

14.冬の八甲田山縦走道路がすごい

青森市から八甲田山中の酸ヶ湯温泉に向かう途中で左折し、八甲田山を回るように田代平を通り、谷地温泉から蔦温泉を通って、奥入瀬に出る。奥入瀬渓流沿いの道を上って、十和田湖に出て、そのまま秋田県に抜ける観光ルートがあります。定期便のJRバスが冬でも走っていて、厳冬の谷地温泉や蔦温泉を訪れることができます。

途中、田代平の手前で、青森第5連隊が遭難した際に最も多くの死者を出した第2宿営地の鳴沢を通ります。また、谷地温泉から蔦温泉までの雪のブナ林は、枝の雪がキラキラと光り、それはそれは綺麗です。奥入瀬渓流の多くの滝は青白く凍結し、別世界となります。

青森県はこのルートの3箇所に常駐の除雪隊を置き、どんな吹雪の悪天候でも通行を確保しているのです。死守していると言っていいかもしれません。北日本が猛吹雪に襲われ、新幹線も飛行機もダメ、国道の通行も怪しいという時でさえ、このルートはきちんと除雪され、JRバスが走っているのです。

青森県人は冬の八甲田山は死の山だと思っていて、誰も足を向けないのですが、このルートの冬のドライブは最高です。吹雪の中、スピードを出して走っていて、雪の中からJRバスが出てきて驚くこともありますが、車は殆ど走っていないので景色を眺めながら、自分のペースでドライブすることができます。


15.どこでもバーベキューOK

青森県では、基本、どこでもバーベキューOKです。弘前城公園のお花見会場であろうと、浅虫温泉海水浴場であろうと、いろんな夏祭りの会場であろうと、もちろん八甲田山に点在する美しい高原でも、国立公園となった三陸海岸のどの浜辺であろうと、火を起こしてバーベキューができるのです。

芝生のとても綺麗な公園があって、さすがにこの公園ではバーベキューは無理だろうと思っていると、芝生の中に立て看板があります。看板には『バーベキュー禁止』と書いてあると思いきや、『直火禁止』と書いてあるのです。バーベキュー台を使って直火でなければ、バーベキューOKなのです。

写真は、三陸海岸でバーベキューをしているところ。八戸の蕪島から、白浜海岸、種差海岸、そして、NHKの朝ドラ『あまちゃん』の舞台となった小袖海岸まで、美しい海岸が続きます。

どの海岸の芝生の上でも浜辺でも、火を起こしてバーベキューOKなのです。


右写真は、八戸の朝市で買った蟹や魚を焼いているところ。この蟹は買った時にはまだ生きていて、ひと盛り6杯1000円(生きているから6匹?)だったのですが、蟹が皿から逃げ出して、どの皿にも6匹いなかったものです。


青森の厳しい冬が過ぎて外で活動できる春が来ると、青森の人達はバーベキューセットをもって出かけるのです。お供は、上北農産加工のスタミナ源たれ。青森産のリンゴやにんにく・玉ねぎ・生姜等をたっぷりと使った焼き肉のたれです。青森の人は源たれ以外の焼き肉のたれは使わないのです。

庭先でバーベキューをしている姿も良く見かけます。三世代、四世代家族などは、爺さん婆さんから子供まで、とても楽しそうです。

16.本当に美味しいのはホルモン

青森といえば、むつ湾のホタテや大間のマグロなどの海産物が新鮮で美味しいというイメージがありますが、青森の県民食は何かと聞かれれば、私の回答は、ラーメンとホルモンです。

ラーメン屋は至るところにあります。青森のラーメンは魚介の出汁をきちんととった、アッサリ味のラーメンです。ですから、朝食にラーメンを食べる人も多く、通勤路にはラーメン屋が並び、朝6時頃からオープンしています。

青森県には牧場も多く、下北牛をはじめ品質の良い牛肉が生産されています。A5ランクの肉なども、東京の半分以下の値段で手に入れることができますが、日持ちのする肉は東京などへ出荷されます。ところが、内臓(ホルモン)は日持ちがしないので、地元で消費されるのです。ホルモンの中でも、日持ちのする部位は東京に出荷されます。我々が東京で食べる、固い固いホルモンは日持ちのする部位なのです。


青森の焼き肉屋で食べるホルモンは全く別物です。ソフトでジューシーで、簡単に噛み切れます。ホルモン専門店には女性客も多く、繁盛しています。これら青森県民がホタテやマグロを頻繁に食べているかというと疑問ですが、ラーメンやホルモンは完全に日常生活の中に溶け込んでいると思うのです。


17.知られざる観光名所

豊かな生態系をもつブナ林として、白神山地が世界自然遺産に登録され、ハイキングに訪れる人も多くなっています。しかし、白神山地のブナ林は下草が多く、あまり美しくないのです。ブナ林は、白神山地だけでなく、青森県全体に分布しています。谷地温泉から蔦温泉に向かうブナ林は下草もなく綺麗です。蔦温泉の周囲をめぐる一週3kmほどの散策路は、途中に美しい湖が点在し、オススメです。

下北半島の付け根の野辺地町に烏帽子岳という標高700mちょっとの山があります。ハイキングコースが整備されていて、頂上まで2時間ちょっとで登ることができます。登山口の辺りはヒバの原生林、やがてヒバとブナの混成林になり、そして頂上に続く尾根に近づくとブナの原生林になります。植生が豊かで、森の動物たちも沢山います。ガサッと音がするとカモシカです。

奥入瀬や十和田湖、白神などという有名な観光エリアだけでなく、普通の山や川が十分に美しいのです。

知られざる観光名所としては、奥入瀬の支流にある、松見の滝があります。落差90mの二段の滝で、日本の滝100選にも入っていますが、地元の人は誰も知りません。

滝といえば、秋田県の安の滝も知られざる名瀑です。秋田内陸鉄道の阿仁駅から車で1時間半。そこから更に1時間ほど歩いた所にあります。

上下2段、落差100mの滝が連なり、左手には落差70mの細めの滝があります。


上の写真ではその雄大さが分からないと思いますが、上段の滝の下半分を撮ったのが右写真です。滝壺のあたりにいる、ゴマ粒のような人が分かるでしょうか。

秋の紅葉のシーズンがベストですが、雪解けの頃の安の滝は水量も多く、さらに雄大です。多くの滝マニアが日本一とランク付けする滝ですが、一般には殆ど知られていません。


18.祭りに命をかける

青森の祭りとしては、青森市のねぶたが有名です。でも、現在は観光用の祭りになってしまっていて、一度、参加して跳ねたらもういいかなという感じ。

ねぶたを見るなら、五所川原市の立佞武多(たちねぷた)がオススメです。高さが20mを越える、つまり、ビルの6階の高さに相当するねぶたが夏の夜空を彩る姿は壮観です。

青森市だと、10階建のビルがあったりしますから、立佞武多が映えないと思うのですが、五所川原市は市内全域がほぼ2階建です。建物の頭上高くに立佞武多があるのです。市内でひとつだけ6階建の高いビルがあるのが立佞武多館です(右写真)。この中で、立佞武多が組み立てられているのですが、組み立てた立佞武多をどうやって建物の外に出すのかと思っていたら、ビルの全面のガラス戸が全て開くのには驚きました。


青森の本当の祭りは、『自分達の 自分達による 自分達のための祭り』です。

たとえば、下北半島むつ市の田名部祭り。毎年、8月の18日、19日、20日の3日間開催されます。日程は固定。観光用に開催日を調節したりしないのです。5つの町内がそれぞれ2階建ての山車を用意し、昼間は各町内を練って、夜になると、むつ市の中心部に集まるのです。その昔、北前船の時代には、良港を持つむつ市は文化の最先端でした。その頃、京から伝わったのでしょう。山車の2階にお囃子が乗り、山車につけた長いロープを多くの人が引っ張ります。そして、コーナーでは、笛の合図とともに、てこの原理で山車の方向を変えて、ガラガラガラと引っ張るのです。まるで、ミニ祇園祭なのです。

私も踊りに参加させてもらったり、ある町内の山車に参加させてもらったのですが、祭りの参加者は3日間、殆ど眠らないのです。朝から昼間の飾り付けに変えて町内を引っ張り、夜は夜の飾り付けに変えて深夜12時過ぎまで市内を引っ張る。そして、宿に戻って酒を酌み交わして反省会をしていると、もう朝なのです。

祭りの最高潮は、3日目の深夜です。5つの山車が市内中心に集まり、1台ずつ町内に戻るために離れていきます。5車別れ、場所を変えて、3車別れ。別れる前に酒を酌み交わし、踊りを踊り、そして、互いに提灯を振りながら1台ずつ離れて行くのです。

その時、『また来年ね〜』と女の子たちが叫び、泣き出すのです。(もちろん、女の子同士は次の日も会うのですが。)

そして、この祭りとともに、下北の短い夏も終わるのです。


19.大気汚染指数が低い

すごいなと思うのですが、今は世界の大気汚染指数をリアルタイムで見ることができます。

日本と韓国、中国沿岸部の大気汚染指数は、日本の大気汚染指数で見えます。

これを見ると、中国沿岸部は赤、紫、赤紫といった、重度の大気汚染を示す色で覆われ、東京あたりは軽度の大気汚染を示す、黄色や橙。そして、青森は常に、最もクリーンな緑色なのです。

青森のあの澄み切った空気を吸いたいと思う、今日、この頃です。

青森のこころ その4に続く