国際放射線防護委員会(ICRP)の罪


まず、国際放射線防護委員会(ICRP)は放射線防護のための委員会であって、放射線の影響を正しく評価するための委員会ではないことに留意が必要です。

当初から、防護のためには、放射線の影響を過大評価をしておけばいいという基本的かつ安易な考え方がありました。ところがそれが誤解を生み、人々の不安を招き、反対派に利用され、社会的かつ経済的に大きな弊害を招き、むしろ過剰反応のために死者を出しています。

ICRPもこの弊害を十分に認識しており、定期的に出すICRP勧告のなかで、その修正を試みていますが、全く成功していません。環境問題における人類の選択を誤らせ、将来、20世紀最大の科学スキャンダルと呼ばれるかもしれない、その辺りの状況について記してみたいと思います。


放射線の人体に対する影響について、統計的に結論を出すのが困難な、100ミリシーベルト以下では、4通りの考え方があると、帰依する人々 ー食品中の放射能について−に書きました。

つまり、

1.直線的
2.影響なし。ゼロ
3.むしろ良い効果がある(放射線ホルムシス効果と呼びます)
4.直線仮説よりも、大きな影響がある

このうち、4.は明確に否定されています。もし、大きな影響があるなら、統計的に明確になっている筈だからです。ホットパーティクルなどと謎の言葉や、統計で嘘をついて説明しようとする人もいますが、全て欺瞞です。現実との解離をみれば、嘘つきと分かります。

従って、実際には3通りの可能性です。

1.直線的
2.影響なし。ゼロ
3.むしろ良い効果がある(放射線ホルムシス効果と呼びます)

1.の直線的というのは、LNT:Linear Non-Threshold(しきい値なし直線)仮説と呼ばれています。仮説であって、証明されていないのです・・・というよりも、後で述べますが、誤りであることが分かっています。

※)右図は、電力中央研究所HPより。


一方、世界には高放射能地帯があり、年間10mSvから70mSvの放射線を浴びている人々がいます。何世代にもわたって、その影響を疫学的に調べた研究結果がたくさんありますが、その結論は『2.影響なし。ゼロ』です。

また、日常的に高線量を浴びる集団として、航空機のパイロットがあります。多くのパイロットについてその影響を調べたところ、通常の人よりも長生きしているという調査結果があります。『3.むしろ良い効果がある』です。しかし、もともとパイロットになる人は健康に優れていると考えられ、これをもって放射線ホルムシス効果だとは言えないのです。

積極的に放射線ホルムシス効果を期待している施設があります。ラジウム温泉とかラドン温泉とか呼ばれる温泉、温泉療養施設、洞窟内のラドンを治療に利用している施設などです(注1)。『温泉の放射能は自然放射能であって、福島原発の放射能とは違うのだ』などという、もっともらしい説明をインターネットで見かけますが、同じです。ウラン、ラジウム、トリウムなど放射性の重い元素が核崩壊してできる核崩壊生成物です。最終的には、発生する放射線がα線か、β線か、ガンマ線、中性子線かということのみの違いです。

私は、当然、しきい値(それ以下だと何の影響もない)があると思います。ホルムシス効果があっても不思議ではないし、実際にいろいろな施設で研究が進められています(注2)。

もっと考えられるのは、ゼロ放射線はむしろガン発生率を高めるのではないかとも思います。生物は放射線に耐える能力があるからこそ進化してきたのであって、あるべき放射線が無いと刺激がなくなって修復機能を損ねてしまうのではないでしょうか。

東南アジアでは問題にならない0-157が、なぜ日本で大きな問題になるのか考えてみる必要があります。もともと、O-157は弱い細菌で、他の細菌がいると負けるのに、日本は無菌過ぎるのでO-157の繁殖を許してしまうのです。

しきい値なし直線仮説は、仮説どころか、分子放射線生物学の研究からは誤りと分かっています。

遺伝子には修復作用があり、1個の遺伝子が損傷しただけ(1ヒット)では、すぐに修復遺伝子により修復されて変異しません。修復遺伝子も一緒に損傷(2ヒット)してはじめて変異するのです。

ICRPでは、慢性被爆と急性被爆を区別していないというのも問題で、1年間にわたってゆっくりと被爆する分には、線量が多くても、1ヒットに留まる場合が多く、変異しません。急性被爆で短時間に多くの線量を浴びた時に、2ヒットになる確率が高くなる筈です。

1ヒットであれば、確率的にその影響は直線になりますが、実際には2ヒット理論により、修復の可能な、あるしきい値を持ちます。

以上のような知見がありながら、ICRPは、防護のためには最大値をとっておけばいいという極めて安易な考え方のもと、『しきい値なし直線仮説』を選択したのです。これはある意味、ICRPの原罪なのです。


それでは、そのICRP勧告が引き起こした弊害をみていきましょう。

まず、いくら微量の放射線でも、それに比例した影響がある、確率的に影響がゼロではないと仮定したために、放射線の影響は?と聞かれると、『直ちに影響はない』と答えざるを得なくなりました。本当は全く影響ないと断言していいのです。すると人々は『直ちには無いけど、長期的にはあるかも』と考えてしまったのです。詳しくは、直ちに健康に被害はでない・・・についてをご覧ください。

実際のところ、年間100mSv以下であれば統計的に影響はないことが分かっていて、放射線分子生物学のヒット理論でも説明できますから、その1/5の20mSvくらいで足切りをして、それ以下は影響なしとすべきだったのです。そうすれば、福島事故の復旧ももっと早く進んだし、被災者のストレスも軽減したでしょう。ストレスはガンの大きな原因ですから、ICRPがストレス性のガンで、人々を殺したともいえます。

次に、反対派は、例えば1万分の1という確率に、1千万人をかけて、1000人が原発事故のために死んだなどと言い始めました。1万分の1の確率は、タバコの害と比べると比較にならないほど低いにも係わらずです。

さすがにこれはICRPも看過できず、『この仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり、すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない』としています。

また、福島の事故のあと、当時の民主党政権は、年間1mSvレベルまで除染を進めると言いだしました。『空気』に流されてしまった民主党政権の明らかな悪政です。ICRPは、この原因を作ったことに罪悪感を感じたことでしょう。来日したIAEAの調査団は、1mSv/年という値に呆れて、『年間1mSvという目標にこだわる必要はない』という内容の勧告を出しています。

ICRPの歴史をみると、
1954年には、被曝低減の原則を「可能な最低限のレベルに」(to the lowest possible level)としていましたが、
1956年には「実行できるだけ低く」(as low as practicable)となり、
1965年には「容易に達成できるだけ低く」(as low as readily achievable)と後退した表現となり「経済的および社会的考慮も計算に入れて」という字句も加えられ、
1973年には「合理的に達成できるだけ低く」(as low as reasonably Achievable)とさらに後退した表現となっています。

年間1mSvを目指すなどといった、経済的にも社会的にも、合理的にも達成が難しく、しかも意味の無い処置をICRP自身が諫めているのです。年間1mSvを目指すために、3兆円以上の国富が使われ、実際には単なる除染ビジネスになって、何の害もないビニール袋を積み上げているのです。それにより助かる命は、20mSvと1mSvと全く変わらないでしょう。むしろ、現実には帰宅困難者を多数生みだし、その人々にストレスを与え、ストレス性疾患により死者を増やしています。

3兆円あれば、今後、間違いなく起こる南海トラフ地震や首都圏直下地震の対策に使えば、何千人、何万人という命が助かるでしょう。災害対策は、費用対効果が大切です。ICRPのために、人々がいわれなき恐怖を抱き、それにつけ込んで除染ビジネスが繁栄する・・・しかし、それは人の命を助けないばかりか、本来、合理的に使うべき災害対策費を無駄に使って、将来の被災者を殺すのです。

そして、もっとも大きな問題は、ごく微量の放射線でも危険だという誤った認識を人々に与えたことです。人々が、一部のNoisy Minorityや、一部の大手マスコミの扇動によって、脱原発を言い始めたのです。

多くの地球環境学者が言うように、原子力は人類が地球環境を守るための、もっとも有力で恐らく唯一の手段です。その環境保全性、低リスク性は、客観的にみれば群を抜いています(注3)。ところが、地球環境学者がそう言うと、『環境学者なのに原子力だって』と非難されるので口をつぐんでいる傾向があります。真面目な研究者ほど、ICRP勧告に沿って『確率的には放射線障害が起こる』と言わざるを得ないからです。

ICRP勧告のために、人類が脱原発へと舵を切り、将来、環境問題とエネルギー問題のために大規模戦争や地球の荒廃をもたらした時、ICRPの勧告は後世、人類の正しい選択を誤らせた『20世紀最大の科学スキャンダル』と呼ばれるのではないでしょうか。


それでは、どうすればいいのでしょうか。

私の提言は、ICRPを解体し、世界保健機関(WHO)や国連委員会などと合体し、『放射線の影響を正しく評価して、放射線防護の指針を出す』という機関を新設することです。

放射線や疫学に対する世界の専門家を集め、これまでの研究成果を纏めれば、『年間100mSv以下の被爆は有意な健康被害をもたらさないので、その1/5の年間20mSv以下を世界標準とする』という結論が得られるでしょう。その時、放射線の影響はと聞かれた専門家は、『直ちに影響はなく・・・』という回りくどい表現ではなく、『影響はありません』と断言できるのです。


注1:放射能泉としては、ガン患者に人気のある秋田県の玉川温泉(ラジウム)、ラドン温泉の鳥取県三朝温泉や新潟県五頭温泉などが有名ですね。オーストリアのハイルシュトレンにはラドン洞窟で大規模な治療を行っており、世界中から治療と保養に人々が集まっています。日本も坑道でのラドン浴ができる兵庫県の富栖の里があります。すべて、放射線のホルミシス効果を期待した施設ですね。

注2:私の働いている研究所のすぐ近くに、大量のマウスを使って低放射線の影響を調べている研究グループがありました。よく、懇親会などで一緒になった時に『ホントのとこはどうなんだ?』と聞くと、とても慎重な言い回しながら、ホルムシス効果は観測できているというのです。じゃあ、大々的に発表したらと言うと、まだ分からないところが沢山あるからダメ。発表した時の反響に苦慮しているのでしょう。

注3:大気汚染が原因による疾病で死亡した人の数は世界で年間550万人に達しています。石炭火力が80%の電力を占める中国では、肺がんの発生率が50%増加したという報道もあります。毎年、炭鉱で何万人も死んでいます。

一方、原子力発電による死者数は世界でこれまでに62人。関連死(避難によるストレスなど)でチェルノブイリで約4000人、福島では放射能による直接の死者は出ていませんが、やはり避難によるストレスなどで多くの方が亡くなっています。そのストレスをもたらした、ICRPの原罪である『最大評価の直線しきい値なし仮説』をとっても、100mSvを浴びた場合のガンの発生率の増加は0.5%です。

壊滅的な被害を引き起こし、多くの死者を出し、不可逆の環境被害を与えているのは、どちらなのでしょうか。

チェルノブイリの教訓は、なぜ福島に生かされなかったのかへ続く