国民投票の愚


イタリアで憲法改正の是非を問う国民投票があり、大差で憲法改正に反対という結果が出たとのこと。改正を提案していたレンツィ首相が辞任する意向を示したそうです。

イタリアは過去にファシズムに走った反省から、現行の憲法では、上院と下院の権限が対等となっており、互いに否決しあって議案が通らないなどの弊害が続いていました。

そこで、今回の憲法改正のポイントは、

1.上院の議員定数を削減
2.上院議員は、市長や州議員ら地方の代表者で主に構成
3.法案審理や内閣信任・不信任決議採択の権限を下院に限定
4.上院は下院で可決された法案の修正を提案できるが、下院は修正を拒否する権利を持つ
5.州が持つ環境や運輸、エネルギーなどの行政権限を国の専権にする

つまり、上院に対して下院を優越させ、決められる政治を目指すというもので、ごく当然な改正のように思えます。特に、上院の議員を減らし、下院とは違ったシニアなメンバーとしアドバイス機関とするのは、民主主義の弊害である『民意の暴走』を抑えるために極めて賢明な方法です。日本のように、参議院と衆議院に同じような議員が揃っているのでは、参議院の役割が疑問視されます。

また、環境や運輸、エネルギーなども、国として統一した政策のもとに行うべきであり、イタリアの産業を苦しめている電気料金の高さ(家庭用はドイツとイタリアが最も高く、産業用は飛び抜けてイタリアが高い)を早急に改善しないとイタリアはますます貧しくなるでしょう。(注1)

これらの当然と思える憲法改正に対して、野党が国民を扇動し、政権批判の声とした結果が、今回の反対という国民投票結果になったのでしょう。では、野党が現政権を引き継ぎ、イタリアの状況が改善するかというと決してそうはならないと思います。国民を扇動した野党は、EU脱退なども言い出しかねず、イタリアをめちゃくちゃにした後で、責任を放棄するのが関の山でしょう。

イギリスのEU脱退を問う国民投票もそうですが、国の進路を決める重要な決定を国民投票にかけるというのは大いに疑問です。

イギリスはEUの中で、EU加盟により人材と資本を集め、一方でシェンゲン協定の枠外という、いいとこ取りをしてきました。EU脱退というのは明らかにイバラの道です。EU脱退を煽った政治家たちは、脱退が決まるなり責任を放棄してしまいました。キャメロン首相は、これほど大事な事を国民投票にかけてはいけなかったのです。

外交や防衛、エネルギーといった国レベルのことについて、すべての有権者が正確で客観的な情報をもとに、正しい判断ができれば理想ですが、現代のように世界全体の規模が大きくなり、複雑化している状況では、それは理想論であって現実的ではありません。理想論(イデオロギーと言ってもいいと思いますが)が先行する政治は必ず失敗します。国民は扇動されやすく、民意は暴走しやすいのです。

現代の議会民主制というのは、大局的な見地から理性的な判断ができる『政治のプロ』を信任投票することであって、国レベルの事をひとつひとつ有権者が判断することではありません。人類の歴史をみれば、民意で国の方針を決めた場合には容易にポピュリズムに陥り、衆愚政治のあげくにその国は間違いなく滅びています。

12月9日号の週刊朝日に、室井佑月氏による『なんでこうなる。おかしくないか?』という記事がありました。安倍内閣の支持率は、支持する55%、支持しない26%というNHKニュースに対し、個別案件でみると、TPPの国会承認の賛否は、賛成18%、反対24%、どちらともいえない48%、年金制度改革関連法案については、賛成10%、反対49%、どちらともいえない33%、南スーダンでの自衛隊の駆けつけ警護、賛成18%、反対42%、どちらともいえない32%、・・・などと例をあげ、現政権の政策に反対している人が多いのに、どうして支持率が高いのか、この国はどうなってるの?解せないと書いています。

地上波TVでの軽薄なコメントを思い起こさせる内容で、分かってないなあと思うのです。

国民は、安倍内閣を『政治のプロ』として信任しているのであり、個別案件については、TPPで外国製品が入ってくると不安だ、年金が下がるとイヤだ、戦争はない方がいい、・・・と思いつつも、国の舵取りを安倍内閣に任せているのです。


注1):イタリアの電気料金が高いのは、原発や大規模火力の立地に失敗した上に、世界に先駆けで電力自由化を進めたためです。

日本のメディアは東京電力を悪者にする一方で、『電力自由化により電気料金は安くなる』と宣伝しましたが、海外では電力自由化後に電気料金は、ほとんどの国で上昇しています。アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、すべてそうです。自由化に踏み切る際には「市場の競争原理が働き、顧客を獲得するために企業は電気料金を安くするだろう」と考えます。しかし、その予想とは裏腹に、長期的には電気料金はどの国も上昇しているのです。電力やエネルギーは統一的な構想のもとに設備を準備することが重要なのです。

過去にイタリアでは、2003年に送電線に対する負荷が過大となり大停電が起こっています。この大停電は18時間に渡り、国民は大きな被害を受けています。これほどまで被害が拡大したのは、送電線の過負荷事故が起こった場合の対策が全くされていなかったためです。日本では、先日(2016年10月12日)に埼玉の送電線から出火して都内が大停電となりましたが、東京電力はわずか1時間で復旧させたのです。