味覚障害とイトリゾール


白血病患者の抗がん剤治療の際に抗菌剤として使用する薬『イトリゾール』があります。

シロップ状の甘い薬です。眠る前に20mlを小さな計量カップに入れて飲みます。

その味たるや、抗がん剤治療をやった人の殆どが嫌悪し、恨みを持つほど酷いもの。最初の1ヶ月くらいは薬だと思って我慢して飲むのですが、そのうちにどうしても飲めなくなり、吐き気のある時などは本当に吐いてしまったりします。

飲むためには相当の覚悟が必要で、薬を目の前にしたまま30分くらい固まったこともありました。

女性病室では独りではとても飲めないというので、担当を決めてアラームをかけ、皆が集まって、あめ玉を口に入れて甘くしてから、いちっ、にっの、さんで飲むそうです。


しかし、この薬、身体が抵抗力を失っている時に、カビ(真菌など)で身体が黴びるのを防ぐために、効力絶大、代替不能の薬らしく、どうしても飲まないといけない。

試行錯誤のあげく、私が編み出したテクニックは、冷蔵庫で冷やしておくのは勿論ですが、味が分からないうちに素早く午後の紅茶ストレート(甘い)を飲み、すぐに冷たいミネラルウォーターで流すことでした。


骨髄移植のあと、10日目くらいから味覚障害が起こりました。何を食べても砂を食べているみたい。ただ、全ての味が無くなった訳ではなくて、ソース味、塩味は微かに分かるのですが、醤油、カツオ出汁などの和風系の味が全くしません。旨みがなく、魚はどれを食べても一緒。銀むつ、サバ、ブリなど、魚の味を区別できないのです。

すると、イトリゾールを飲むことが苦痛ではなくなりました。ただ、甘いと感じるだけで、その後の嫌らしい匂いや香りが残らないのです。料理の旨みを感じる部分にイトリゾールが効いて、嫌らしい味を残すのかと納得です。

1年も2年も味覚障害が続けば問題だけど、1ヶ月くらいなら、味覚障害は残っても、イトリゾールの苦痛がない方がいいかなと思ってしまいました。

味覚障害が続いて、Day25。お正月とあって、朝食に七草がゆが出ました。その時、七草がゆの微妙な旨みを感じることができたのです。『あっ、わかる!!』

かなり感激しました。それからです。食事ごとに魚の種類の違いが再び分かるようになって、出汁の効きも分かるようになりました。


すると、イトリゾールの苦痛が再び始まったのです。

ある時は、最後にミネラルウォーターといくべきところ、間違えて、炭酸水にいってしまって、一旦、胃の中に入っていたイトリゾールが、ゲップとともに口に戻ってきました。死ぬかと思いました。