大部屋の仲間たち


この病院では、骨髄移植後の経過がいいと、3週間から4週間で移植病棟の中の個室から4人の大部屋に移ります。個室にいる時は、看護士さんと医師以外とは話す機会もなく、個室から廊下に出ることも出来なかったのです。

大部屋に移っても、女性の大部屋は会話が弾んで賑やかみたいですが、男性の大部屋は基本的に静かです。とはいえ、挨拶はしますし、個室で会話がなかった反動で、いろいろ話も弾みました。同室になった、大部屋の仲間たちについて書いておきます。


まず、窓際のベッド同士でお隣になったOさん。60才。本職は塗装業ですが、リフォームとか不動産とか手広くやっていたとのこと。60才になったし、病気で身体も動かないから『もう引退だな』とOさん。

私と同じく、親子間移植で、30才になる息子から造血幹細胞をもらったとのこと。経過も順調で(順調でないと大部屋に移れないのですが)、二人して『半分不一致で心配したけど、やって良かった』と言い合っています。

Oさんは、何年か前に大腸ガンをやった事があって、内視鏡手術でガンを切除したのですが、その後遺症かもしれない症状が現れて、一時、心配しました。今は、腹部の膨らみも萎み、平熱に戻りました。大腸の内視鏡検査を行うために、絶食して、何リットルもの水分を摂り、大腸を空にするのが辛そうでした。

でも、本来、楽天的で『俺はこれから趣味に生きるんだ』という希望、気力を持っている事がいい経過に繋がっていると思います。『陶芸をやりたい』と医師に言って、『土いじりは雑菌があるので、当分はダメ』と言われていましたが。

自宅は東村山市で、二階建ての家。階段があるので、それに合わせて一時帰宅の前にリハビリを行うのですが、『歩くことはできても階段が全く上がれない』状況です。筋肉が落ちてしまっているのです。まずは足を上げて歩く練習を言われているようです。

私のレーザープロジェクターやタブレットの使い方をみて、ガラケーしか使ったことがないOさんは甚く感動したらしく『すごい、すごい、そんな事も出来るんだ。俺もやってみよう』と言っているところ。

そのOさんと移植前処置の時から知り合ったというKさん。64才。数学の先生をしていたそうです。私と同い年なので、誕生日を聞くと昭和27年2月で一緒。何と2日違いで私の方がお兄さんでした。

失礼ながら、私よりも年配だと思っていたので、それなりに敬意を払っていたのですが、タメだったのですね。

骨髄バンクでドナーを探したところ、21才の1座以外は完全一致の男性登録者がすぐに手を挙げてくれて、移植手術を行ったとのこと。経過は順調で、皮膚症状を含め、今のところ殆どGvHDが出ていません。『ある程度、GvHDの症状が出た方が良い。このままだと再発するんじゃないか』と心配しています。

本来、すごく心配性で、入院した時には全く眠れず、寝なくてはと思うと胸が苦しくなって、いろんな薬を処方してもらったがダメだった。今も睡眠導入剤でも眠れないと、愚痴を言います。
『人間、眠れなくて死ぬ人いませんから、大丈夫ですよ』
『医者もそう言うけど、胸が苦しいんですよ。精神科の先生にも診て貰ったけど治らない』
『2,3日眠れないと、昼間とか眠くなるでしょ?』
『うん、昼間、うとっとすることはある』
『じゃあ大丈夫ですよ。私もそうですが、なかなか4時間以上は眠れない』
というので、眠れない時には深夜であっても、デー・ルームで過ごそうということになりました。

やはり、『もう定年で引退。これからは趣味に生きる』と言っていて、趣味は?と聞くと、『へらぶな釣り』。若い時からの趣味で、弟子がたくさんいるとのこと。『へらぶな釣りを極めたい』と医師に言って『雑菌が多いし、寒さもあるし、当分は勧められない』と医師に言われたそうです。

お互い、予後は難しい。成功率は3−4割と言われたのに、ここまで来ることが出来た。感謝だと言って、深夜のデー・ルームで2人して涙ぐみました。『病気になってから涙もろくなって、人前で泣いてしまう』という話になって、私が『実の兄には本当に感謝している。私のドナーになろうと、1年間、大好きな酒を断って準備してくれた』と言って泣きました。

Kさんの場合、7つ下の弟がいて、骨髄移植のドナーの話をしたら、合致しているかどうかの検査をするのもイヤだと断られたとのこと。当然、疎遠になっているそうです。

我々、高齢者に囲まれた、唯一の若者Yさん。年齢不詳。長身で、30代くらいでしょうか。

挨拶はしますが、すぐにカーテンの中に入ってしまいます。GvHDの症状が重く、食道炎、皮膚炎になってしまいました。食道炎の方は、GvHDなのか、何かの感染なのか、医師も判断がつかないようで、『GvHDだと免疫抑制、感染だと免疫促進で逆の対処だから、まずそれを見極めないと』という医師の診断がカーテン越しに聞こえます。

『牛乳までは喉を通るが、ジュースになると厳しい』と本人の声。それに、全身皮膚炎になって痒さが耐えられないほど。今は、その皮膚炎の皮が剥けて、日焼け状態になったのですが、むしろ痒みがなくなった分、楽だと言っています。なかなか、大変そうです。


Oさんの移植日は11月末、Kさんの移植日は12月2日。私は12月13日ですから、約2週間違い。まずはOさんとTさんがお試し帰宅をやって、それから1週間して退院してもらう。そうすれば、私の退院の順番になるかなと期待しています。