『空気』としての太陽光発電


2012年に再生エネルギー固定価格買取制度(FIT)が制定されてから、全国のあちこちにソーラーパネルが出現しています。

写真は青森県六ヶ所村に出現したメガソーラー。雑木林を切り倒し、一面のソーラーパネルが敷き詰められ、まるで海のように見えます。私の愛する北の国の小さな公園のすぐ隣にできたのですが、公園の写真で分かるように、12月から3月まで少なくとも1年のうち4ヶ月は積雪のために発電量はゼロになるでしょう。それでも、事業として成立するのは、法外な買取価格のせいですね。


先日、とあるTV番組で、『現在、申請のあった太陽光発電の設備容量は7,000万kW、実際に稼働しているのが1,000万kWで、それぞれ原発70基分、10基分に相当する。だから、原発なんか再稼働しなくていいし、原発なんか要らない』と司会者が言っていました。設備利用率を全く考慮していない暴言です。太陽光発電は昼間だけ、曇りや雨の日は発電量が落ちます。積雪に覆われればゼロになります。設備利用率は、雪の無い地方で12-13%が実績ですし、上の写真の六ヶ所村の施設では、その8/12(雪の無い8ヶ月/12ヶ月)に落ちるでしょう。つまり、1,000万kWの太陽光発電の設備容量は原発1基分とちょっとにしか過ぎない訳です。

実際に総発電量に占める太陽光発電の割合は数%にしか過ぎません(2014年の統計で、2.1%。2015年、2016年の値はまだ見当たらないのですが、稼働実績の伸びから推測しても3%止まりでしょう。)問題は、この不安定な電力、数%のために、各家庭が負担する再生エネルギー賦課金が2015年度で、毎月500円程度になっていることです。もし、申請された7,000万kW全てが稼働しはじめると、各家庭の負担は許容限度を超えるでしょう。(固定買取価格が日本の半分のドイツでさえも、毎月1250円程度になっているそうです)毎月の電気料金の負担ばかりでなく、飲食店や工場などの年間負担は何十万円、何百万円になり、それは当然ながら商品価格に跳ね返って、最終的には消費者が負担することになります。

この再生エネルギー賦課金は、日本全体では年間1兆円を越える金額になっていますが、その金はどこに流れているのでしょうか。当初のマスコミなどの論調にあったように、新技術(補1)や新産業を生み出すために使われているのでしょうか。

この辺りをレビューする時期に来ていると思うのですが、私のみるところ、新技術や新産業を生み出すことなく、20年保証、42円/kWという法外な買取価格のために、めざとい事業者が既存の技術を使って全国にソーラーパネルを撒き散らしただけのようにみえます。ソーラーパネル自体は安価な中国から輸入し、日本ではモジュールに組み立てるだけ、利回りの良い投資として事業者に供与された資本が外国資本で、国民が負担した電気料金は、投資利益として外国に流れているのでは、日本の資金の流出を招き、発展に貢献していないのではないでしょうか。

撒き散らされたソーラーパネルは既に環境破壊の一因となっていますが、使用済みのパネルは砒素とか鉛とかカドニウムなどの重金属を多く含みます。移り身の速い事業者達は、これらのパネルをきちんと処理してくれるのでしょうか。倒産などのために処理されないパネルがあれば、更に大きな環境破壊になります。

2012年までにソーラーパネルを屋根に取り付けた家庭は、42円/kWという買取価格のために、かなりの利益を上げているかもしれません。しかし、これは、貧乏人が負担した賦課金が、ソーラーパネルを設置する余裕のあった金持ちに流れているということです。

最近では、電力会社が買取を拒否したり、買取価格が急激に下がっていたり、また、申請だけしておこうという事業者も多かったために、7,000万kWが全て動く事態にはならないと思いますが、20年保証、42円/kWという法外な買取価格は、その固定価格買取制度とともに、将来にわたって日本の大きな負担となるでしょう。

さて、何故、このような事になったのでしょうか?

1.政治家は、移ろい易い民意や一時の感情に溺れることなく、その政策が将来にわたってどのような影響を及ぼすかを冷徹に洞察して政策を決めるべきですが、当時の管直人元首相がそういう政治家ではなかったこと。全体のバランスを考えない一点突破型の手法(注1)に長けた市民運動家出身者は政治家には向かないと思う所以です。

2.原発事故のあと、科学的なデータや知見に基づかない恐怖を煽るばかりの報道が満ちあふれ、脱原発のためならどんな負担も厭わないという『空気』が醸成されていたこと。事故から5年以上がたち、一部のマスコミが煽ったような事態が起こらないことが分かったいま、冷静が議論が必要ですが、未だにその後遺症があります。

この、マスコミが煽る『空気』が醸成され、大局観や洞察力を持たない政治家がそれに流されて選択を誤るというのは、実に、太平洋戦争に日本が突っ込んでいったのと同じ構図です。誰が戦争を起こすのかに書いたように、日露戦争においては、戦争続行を望む世論に抗して、妥当な条件で戦争を終結できたのは、西園寺公望らの元老が健在だったからです。しかし、太平洋戦争においては元老が不在となり、将来を洞察できた一部の官僚や政治家も戦争を望む『空気』に抗えなかったのです(注2)。

いずれ太陽光発電に偏った再生エネルギー固定価格買取制度は修正され、原発も含めた日本としてのエネルギーミックスが見直されることでしょう。その際、一部のマスコミや活動家が煽る『空気』に流されることなく、冷静な判断を行う、あるいは判断を託すことのできる政治家や専門家を信頼する賢明さを持つことが必要と思うのです。


注1:2009年、民主党政権のもとで消費者及び食品安全担当相となった福島瑞穂氏は、ポイントを上げようとして、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の含有量の表示を義務化するガイドラインを作りました。確かに、当時、欧米ではトランス脂肪酸の取り過ぎは心臓疾患のリスクを高めるとして規制の動きがありました。WHO(世界保健機関)などが示した目安は「1日の総エネルギー摂取量に占めるトランス脂肪酸の比率を1%未満にすること」だったのですが、米国ではそれを遥かに超える3%近い摂取量でした。ところが、日本人の摂取量は、エネルギー比にして、0.3%であり、WHOの目安を大幅に下回っていたのです。にも係わらず、トランス脂肪酸だけを目の敵にして表示を義務化した結果、飽和脂肪酸の摂取量が増え、日本人の健康へのリスクは逆に高くなってしまいました。これなども、全体のバランスを考えない、一点突破型政治の悪例ですね。

注2:西園寺公望は(日本に好意的で日本の実効的な満州支配を認める)リットン調査団の報告書に批判的な新聞に不快感を示し、新聞が、「断乎一撃」などの言葉を使っ、「さかんに人を殺したり、その数が多ければ多いほど褒め称える」風潮についても懸念を示していました。日独伊三国同盟が成立した時には「どうしてこんな馬鹿げたことになったのか」と嘆いていました。死の床での最後の言葉は「いったいこの国をどこへもってゆくのや」だったそうです。(Wikipediaによる)


補1:実は私、太陽電池がらみの特許を持っています。

写真はそれが報道された記事の一例。核融合用に開発した大電流負イオンビームを使って、シリコンなどの単結晶を太陽電池に最適な厚さにスライスする技術を開発したのです。

通常、シリコン単結晶を使った効率の高い太陽電池は、通常の半導体産業で使用される1mmの厚みを持っています。シリコン単結晶は高価なため半導体製造に使ったシリコン基板の余りを使うのですが、それにしても製品価格に占める材料費は高く、効率や寿命が短くても材料費が安い多結晶シリコンなどを使っているのが実情です。

しかし、太陽光は5-7ミクロンくらいの厚みがあれば十分に捕らえることができるので、1mmもの厚みは不要です。そこで、シリコン単結晶を10ミクロンの厚みにスライスすれば、1mmの基板から100枚の太陽電池基板を製造することができ、材料費を大幅に減らし、効率の高い太陽電池を安価に製造できるという技術です。

更に先進的なガリウム砒素の基板をスライスすることができれば、40%以上の変換効率を持つ太陽電池基板を安価に製造できます。シリコン単結晶の変換効率は20%台ですが、ガリウム砒素を使った太陽電池では45%程度の変換効率が得られています。しかし、基板があまりに高価なために宇宙船の太陽電池などのコストを考えない用途にしか使われていません。もし、1枚の基板から100枚の基板をスライスすることができれば、材料費は大幅に低減され、40%以上の変換効率をもつ太陽電池が安価に製造できるでしょう。

この特許はあまりに先進的すぎて、未だに使われることはありませんでしたが、新技術としての開発資金があれば、是非、やってみたいことです。